約 1,167,080 件
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1500.html
「しくじった」 髪を真っ赤に染めて両耳には大量のピアス、右目の下にバーコードの刺青を入れた少女 は、三日前に呟いたのと寸分違わぬ苦々しげな口調で吐き捨てた。 少女の背後では、真っ黒な修道服に全身をぴっちりと包み、顔以外に肌が露出している ところがないのにやたらとお色気を振りまいているほのぼのシスターさんが、洋服を取っ 替え引っ換えしながら少女を着せ替え人形にしている。 「シスター・オルソラ、そっちのほうが似合ってたのでは?」 「ルチアさん、あなた様もそう思います?」 サイズがちょうど同じくらいだったからと、最初は已む無くしぶしぶながらといった感 じで少女を自室に導きいれた、ルチアと呼ばれたシスター――『アドリア海の女王』の一 件でロンドンに逃げ延びたローマ正教の戦闘部隊の一人――も、いつの間にやら着せ替え ごっこに夢中になって、少女を連れてきたシスター、オルソラ・アクィナスと服選びに没 頭してしまっている。 少女はいかにも『困った』という風に、部屋に入ってきた、世界に20人しかいないと いう聖人の一人である神裂火織に目線を送ったが、その神裂も 「もう少し派手なくらいが良いんじゃないですか?」 などと言い出す始末だ。 「いい加減にしてくれないか? 僕は問題が解決するまで当面着る服がない、と言っただ けなんだ。こんな目に合わされる必要は全くないはずだろう?」 下着姿のまま(実はその下着もルチアのものだ)、体や腕にも刺青が見える赤い髪の少 女が痺れを切らして叫ぶ。まるっきり男口調だが、周囲の少女たちもまた動じる様子はな い。 「何を言いますかステイル。ここを頼ってきた以上は恥ずかしい格好で街を歩いてもらう わけにはいきません。少しくらいは我慢しなさい」 「そうですよブラザー・ステイル。せっかくお貸しするんです、似合ったものを着てもら ったほうが服も喜びます」 「まあまあ。こんなに素材がよろしいのに、遠慮しては駄目なのですよステイルさん」 少女を取り囲む3人が口々に意見を叩きつける。 それを聞き、赤い髪の少女ステイル・マグヌスは、着せ替え人形を続けさせられること へ苦々しげに溜息を吐いた。 そう。 この少女こそ、『必要悪の教会』でも屈指の魔術師にして炎のルーン使い、ステイル・ マグヌスその人なのである。 何故にこんなことになってしまったのか――元凶は三日前に遡る。 「しくじった」 数年前にイギリス清教を裏切り、地下で魔術結社などという馬鹿馬鹿しいものに血眼に なっていた元上司の始末を命令された。 その男は、例えば天草式のように流れながら活動をしていればもう少し手応えもあった ろうに、同じ場所に拠点を構えると言う愚を犯していた。それなりに力のある魔術師であ ったから、しばらく姿を眩ますことが出来ては居たものの、見つかってしまえば一箇所に 居を構える敵など、逆にステイルの敵ではない。 作戦は完璧だった。雑魚どもは控えている『必要悪の教会』の手勢がすべて制圧してい るだろう。 ところが、最後でしくじった。いや、作戦としては成功の範疇なのだ。 しかし、完璧な包囲網の元、天草式に学んだ布陣術で強化された魔女狩りの王を伴い挑 んだ戦い――実際は戦いにもならなそうだった――の決着も着こうかというとき、一瞬気 が緩んで怪しげな術式を受けた…様な気がした。それに気を取られている隙に、 「自害されるとは…。生け捕る余裕は十分にあったのに……あの男と関わってからどうも 上手くいかない気がする」 禁書目録の件で関わった日本人、科学側の拠点である学園都市の住人、上条当麻の姿が 頭に浮かんだ。 「ちっ…。面白くない。何故僕があんなやつのことを思い起こさなければならないんだ」 毒づきながら、懐からマールボロの箱を取り出すと、一本取り出して火を点けた。 その拍子に、今度は学園都市で出会ったとある女性を思い出す。 『またこんなキザったらしい名前の煙草を選ぶなんて。さてはあなた、映画俳優か何かに 憧れて喫煙を始めたクチなのですかーっ!?』 自分が一緒に居た頃の、禁書目録のシスターによく似た雰囲気だった。 (コモエ・ツクヨミ…とかいったか…?) 何故かイライラが募った。点けたばかりの煙草を吐き捨てる。 「馬鹿馬鹿しい。仕事も終わりだ。撤収するぞ」 このときステイルはらしからぬミスをしていた。 何らかの術式を受けたのにも拘らず、自分に対して魔力探査をしなかったのだ。このと きその手順を怠らなければ、その後、後から思えば自殺したくなるほど恥ずかしい大騒ぎ をせずに済んだはず、だったのだ。 その三日目の朝。 ステイル・マグヌスは最大主教のお間抜け書類に悩まされることもなく、さわやかな朝 を迎えていた。 昨日は妙に身体の節々が痛んだし、酷く気分が悪かったので仕事がさっさと済んでしま ったのは全くの僥倖だった。久しぶりにゆっくりと休んだような気がする。 毛布を払い、手を伸ばして伸びをした。 ベッドから上半身を起こし、再び手を伸ばす。袖が妙に余っている。おかしいな、と思 いつつも袖を上げようと片腕を寄せると、上腕がなにやら柔らかいものに当たった。驚い て下を見る。するとそこには―― やたらブカブカになって、ちゃんとボタンを閉めてあるのに艶かしく開いてしまってい るパジャマの胸元に、谷間が出来ていた。 「なっ、なっ、な…」 慌ててベッドから飛び出そうとして、ズボンの裾を踏んづけてコケた。したたかに打ち 付けた鼻を押さえながら立ち上がる。痛さに涙が滲んだ。が、今は痛みよりも鏡である。 裾の長さにさらに何度かコケそうになりながらも、バスルームに飛び込んで鏡を見る。 そこに写っていたのは。 大きすぎて片方の肩からパジャマがずり落ち、悩ましげな胸元を晒す、真っ赤な長髪の 美少女だった。 呆然と口が開く。 自分の体を直接見回す。そして、再び鏡を見る。 やはり、鏡に映っているのは赤い髪の美少女。 『必要悪の教会』の猛者、ステイル・マグヌスは自分の姿を見て卒倒すると言う稀有な 経験をすることになったのだった―――。 再び目が覚めても、この悪夢は覚めなかった。恥を忍んで、ローラ・スチュアートに事 態の説明はしなければならないだろうが、このままでは外出も出来ない。 「神裂くらいにしか釈明できまい…なんとか着るものくらいは調達してもらおう」 そう思い、教会から与えられた携帯電話(何故か学園都市製だった)を掴むと、小さく なってしまった手のひら――身長は40cmは縮んでいるようだった――に悪戦苦闘しなが ら神裂火織の部屋へと電話を掛ける。 神裂の部屋に掛けたはずなのに何故か電話に出たのはオルソラ・アクィナスで、電話を 替われと押し問答しているうちに事情を喋らされ(実はオルソラは尋問の達人なのかもし れないとステイルは後から思った)、その納得するとも思えない理由をあっさり肯定する と、ステイルの部屋に押しかけたオルソラはまるで拉致でもするかのようにランベスの女 子寮へと彼(もはや彼女といったほうが正しい)を連れ去った。 ここで話は冒頭へ戻る。 周囲では自分に着せるための服の話でかしましい声がする。 煙草を喫おうとしたら、「この部屋は禁煙です!」とルチアに煙草を箱ごと取り上げら れた。ルチアに腕力で負けたときは精神的なダメージも大きかった。 とりあえず、今この瞬間は耐えるしか無さそうだ。 それ以上に深刻な現実があるのだが、目先の騒動に耐えていたほうがまだ精神的にまし かもしれない。 それでもその可憐な唇からは。 「ふっ、不幸だ……」 と、どこかで聞いたような呟きが漏れるのだった。
https://w.atwiki.jp/mbwiki/pages/16.html
総合掲示板とは? 総合掲示板とは、基本料金を無料とし、あらゆるジャンルでほかの方々と掲示板上で会話ができる(messageboard日本語で掲示板)ものです。 簡単に言えば、マンションなどの掲示板で書くようなのとは別に、自由に書き込みができる掲示板です。 この掲示板は広告などがついているため、書き込み、回覧、編集など、すべてのサービスが無料でご利用いただけます。 今あるものでも、ニュースに関するもの、アニメに関するもの、ペットや動物に関するものや、新人さんが挨拶できるようにするための掲示板と幅広くあります。 簡単にまとめると・・・ 無料でいろいろなジャンルの掲示板を見れる。 ルールを守れば自由にすごせる。 という形の掲示板です。 ※追加事項 この間質問がありましたが、当たり前ですが、電気代やインターネットの接続代などは利用者様の全額負担となります。あくまで、掲示板を利用するのが無料ということです。
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/1339.html
学園都市が誇る超能力者(レベル5)。 彼らの能力はまさに超常の息の産物であり、そしてそれらを納得させるだけの力を持つ。 故に、この学園都市でさえも本当の超能力者はたったの七人。 その中でも彼らの『計画』に携わるのは僅か一名。 ありとあらゆるピースを手当たり次第にかき集め、積み木をくみ上げる。 まるでそれは駄々をこねる幼子の如し。 否。 幼子は成長し、それを自制によって押さえ込むことも出来る。 しかし、彼らは違った。 駄々をこね続け、そしてついにはその駄々を通すために世界そのものをすら改変させるという思考は、もはや赤子にすら劣る妄執とさえいえよう。 何よりも精力的に、誰よりも欲深く、そして如何なるものよりも真摯に追い続ける。 己の願望を満たすために。 そして、彼らは新たなピースを見つけ出す。 世界からはじき出され、如何なる存在へも、如何なる世界へも到達しうる至高の欠陥品(マスターピース)。 世界から疎まれ、呪われ、捨て去られて、忘れられた彼は、その世界の可能性を受け継いでしまう。 それは如何なる世界であろうとも己を変質させるという惰弱。 一見すれば強いようで誰よりも脆く濁ったその核。 足りないのならば補えばいい。 持っていないのならば手に入れればいい。 その歪んだ願望こそが彼の本質。 故に、彼らが手に入れたそれこそ、学園都市にて認定された『8人目』の超能力者(レベル5)。 その名前は――― 「・・・平和だ」 そして、彼。 シン・アスカは一つあくびをして放課後の緩やかな一時を過ごしていた。 様々なものが集う学園都市、何の変哲も無いファミリーレストラン。 そのボックス席の一つをまるで独占するかのように、シンは緩みきっていた。 机に突っ伏し、穏やかに午後の日差しを受けるその姿はまるで本能を忘れた飼い猫のよう。 目の前にある珈琲は、やはり一流とは違うものの、そもそも単に彼は珈琲が好きと言うだけで味には頓着がない。 カフェインが取れて頭がしゃっきりとするならば何でも良いが、今はただ、この平穏を味わいつくすことを目的としている。 もしその姿をかつての世界の仲間が見たならば思わず目を疑い眼科に駆け込み精神病院に相談をしに行くほど。 彼の姿はかけ離れていた。 「あぁ、こういうなんでもない日々・・・素敵だ・・・すばらしい・・・」 その瞳は恍惚に憂い、赤い瞳は陽光に照らされてまるでルビーのごとく煌いている。 周りの客は勿論、気にしない。 店員も、ひそひそと何事かつぶやいているが、今の彼には些事に過ぎるといえよう。 照らされる太陽のなんとまぶしいことか。 「いらっしゃいませーお一人ですか?」 窓の外に広がる景色のなんとありふれたものか。 「一人よ。あぁ、席は良いわ。人を待たせているの」 当たり前の日常が、当たり前に続いていく。 「えぇ、彼氏よ」 それはあまりにも美しく、尊くて。 「時よ止まれ、お前は美しい・・・」 「あら、そこまで言ってくれるなんて・・・足りないお頭になにか入れたのかしら?シン」 かけられた声に、彼は絶望した。 人が真正面に座る気配とクッションがきしむ音。 そして、投げかけられる視線はまるで彼を舐める様に愛でつける。 今まで緩んでいた彼の意識が固まる。 窓の外を見ていた首が、ぎしぎしと音を立てるように壊れた発条人形のような動きで前に向けられていく。 あぁ、何で気がつかなかったのか。 何故忘れていたというのか。 かつて、たった今彼と同じことをつぶやいたかの博士が。 ―――ゆっくりと前を向く。 最初に目に入ったのは柔らかなウェーブを描くような茶色の長髪、 「ねぇ、シン」 悪魔と契約をしていたということを。 その悪魔によって魂を、己の全てを奪われたことを。 ―――豊かな肢体を女の子らしい、しかし下品ではない洋服に身を包み、首には赤い宝石があしらわれた黒いチョーカー。 向けられる瞳は髪と同色に、それで居て艶やかさをかもし出す魔性。 「いい加減」 甘い言葉と甘い誘惑。 そう、かつて自分が己の『世界(家族)』を失ったときのように。 ―――かけられる声は優しく、甘く、それで居てどこか有無を言わさぬ絶対者のそれ。 雄(オトコ)を見つめる雌(オンナ)の瞳。 「何か言えっつってんのよ。いい加減目を覚ませこのろくでなしの屑野郎」 突如として今までの優しさを微塵も感じさせない絶対的な声色と、睨み付ける瞳に変化した彼女。 学園都市が誇る超能力者(レベル5)第四位、『原子崩し(メルトダウナー)』、麦野沈利を前にして。 彼は再び思い出した。 そう、幸福とは。 いつだって唐突に、突然、なんの脈絡も無く奪われるということを。 なぜ、忘却していたというのか。 「・・・麦野・・・」 向ける声に対するは彼女の鼻で笑った嘲笑。 彼女は背もたれに身を預け、手馴れたように店員を呼び出し、手早く注文を済ました。 シンはその姿に深くため息を吐いてから、その体を起こして麦野と相対した。 「・・・なんで窓向いてんのよ」 そう、直接ではなく、そっぽを向いて。 「なんでも良いだろ。てか、おれの憩いの時間を邪魔するな」 「憩い、ねぇ・・・」 麦野はふくれっ面のシンの前にある珈琲カップと、机の端に置かれてある伝票を見比べ、そしてもう一度シンを見つめ 「安物の珈琲一杯で、三時間も粘るような客は、店としても迷惑でしょうね」 「っぐ」 痛いところを突いてきた。 思わず、それが口から息と共に吐き出される。 麦野は軽く優雅に肩をすくめ、吐く息と共に言葉をつむぐ。 「馬鹿ね。この貧乏人」 「いいだろ別に!!経済的だろうが!!」 思わずシンは机を叩くようにして麦野をにらみつける。 その瞬間、真正面に座る彼女があまりにも淫靡に笑みを浮かべるのを見て、思わず顔を背ける。 「あは」 ささやく笑いは、哀れみか、それとも歓喜か。 「やっと、こっちを向いたわね。シン」 「・・・お前が浪費家なだけだろうが」 「それは強者の特権よ。上に立つものは、それ相応の義務を全うするの」 突如、彼女の言葉を無視した声に、しかし彼女は淀み無く答える シンはその答えさらに瞳を強くする。 そこには、先ほどまでの緩みきった日向ぼっこをする猫の姿は無く、まるで鍛え抜かれた兵器を思わせる一種の威容を漂わせて。 「そんなのは上に立つものの傲慢だ」 「傲慢こそ強者の義務よ。傲慢を得たいのならば努力しなさい、とね」 上から見下ろすことこと正しいと、救いをもたらすなど無用だと断ずる彼女。 上に居るなら救わねばならぬというのが彼の心情、歪み、捻じ曲げられた彼の妄執。 「お前がそんなお優しいこと言うはずが無いだろうが」 「当たり前でしょ?第一、んな下らない虫けらなんかしらねーよ」 妄執は真逆の妄執と相容れることは無い。 否、そもそも妄執(異端)は受け入れられぬからこそ異端(妄執)だ。 そこに妥協点も接地点もありえるはずが無い。 そして、高まりきったシンの沸点は 「だからお前は―――」 「お待たせしましたー。ストロベリーパフェと、モカになりまーす」 「あら、ありがとう」 突如として割って入った店員によって霧散させられてしまった。 シンは、立ち上がりかけた腰を無理やり押し込むように再び席に着く。 それは別に、三時間も珈琲一杯で粘り続けた客を店員が『痴話げんかなら余所でやれ』というような瞳で見られたからではない。 そう、断じてないのだと、心の中でそう言い聞かせるような願掛けをして。 「・・・なんのつもりだ?」 目の前に突如おかれたストロベリーパフェと、妙に期待している彼女を見比べる。 「何って・・・食べさせなさい」 あ、という風に軽く口をあけてちろりと彼女の真っ赤な舌が踊る。 身を乗り出した体は、その豊満な胸によって机を押しつぶす。 ほんの少しだけ顔を赤らめたシンは、 「・・・くそ」 あきらめて、ストロベリーパフェのクリーム部分を掬い取り彼女に差し出す。 にたりと笑う彼女は小さく開けられた口にスプーンをくわえる。 (これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け、これは鳥の餌付け!!) 周囲からの視線が痛い。 なまじ先ほどまで喧嘩寸前まで話していた男と女。 しかも、両者共にかなりの美形とくれば目立たないほうがおかしいというもの。 それが次の瞬間にはこのような甘い関係を見せ付ければそれは最早必然でしかない。 「って、いい加減スプーン離せ!!」 いつまでも舐めるようにスプーンを加える彼女の舌の動きがダイレクトに伝わる。 ただでさえこのような拷問、早く切り上げたいというのに、しかし彼女は先ほどと同じ瞳。 「ふぃ、や(い、や)」 もごもごと声を出す彼女に、ついにシンも強硬手段に移行する。 普段よりも鋭く研ぎ澄まされた赤い瞳が彼女をねめつけ 「!?っん・・・」 突如麦野は声を上げる。 眉は苦しげに下がり、顔は紅潮する。 それも当然。 シンは強引にスプーンを抜こうとして、逆に彼女の舌に、スプーンをより強く押し付けてしまう。 柔らかな感触が、先ほどとは比較にならぬほどにシンの鋭敏な指を通して伝わってくる。 慣れぬ異質の感触に、一瞬硬直したシンではあるが、すぐさま意識を取り戻し、スプーンを抜く。 「ん」 だが、そうはさせぬというように、麦野は舌と咥内でスプーンをつかむが、まるで力が入らないのかシンは然したる労力も無くスプーンを引き抜く。 その際、咥内から出てきたスプーンにまるですがるように麦野の舌が追いすがり、離れてもスプーンと舌の間に銀の糸が伝う。 しばし、沈黙が二人を包む。 気がつけば周囲もなぜか静まり返っているように思えるが、それは今目の前の怨敵と居る緊張感からくる錯覚だと信じたかった。 「ん・・・やってくれたわね」 「なにがだよ・・・ほら、次行くぞ」 やけに熱をもった瞳を見ないようにしながら再びクリームを掬い取り差し出す。 が、そのスプーンを突然奪われる。 目を向ければ彼女は自分でスプーンをとり、パフェも彼女の前にある。 (・・・自分で食う気になったのか?) ほっと胸を撫で下ろしたシンに、しかしスプーンが向けられる。 彼が先ほど掬ったクリームを乗せて。 「・・・どういうことだ?」 「なにが?さっき食べさせてくれたでしょ?だからお礼よ。食べさせてあげる。味見させてあげる、でもいいけれどね」 「わけがわからん。お前いい加減っんぐ!?」 一瞬の油断で、シンはスプーンを口にねじりこめられた。 甘い味わいと、熱い舌にとろけるクリームが咥内に広がる。 かなり強引だったので、クリームが落ち、ズボンを汚す。 (これは、洗濯しないとだめかよ) と、やけに所帯じみた思いを抱いているのを彼女の言葉がさえぎる。 「・・・このままスプーンを喉に差し込めば、いくらあんたでも倒せるわよね?」 暗い瞳。 色ではなく、そこに宿る心の色。 それを察したシンは彼女をにらみつける。 やるならばやれ。 ただしその時にはお前も道連れだと。 「あは」 笑いは狂気かそれとも悦楽か。 彼女は一言「冗談よ」とつげ、スプーンでシンの咥内をかき混ぜる。 シンは直後、吐き出すようにスプーンを吐き出す。 「いい加減にしろ。お前の冗談は黒すぎるんだよ」 睨み付けるその瞳に満足したように、麦野は腰を落ち着け、スプーンを、先ほど自身の咥内を嘗め回したそれをちろりと舐める。 「さっきの言葉だけど」 「なにがだ」 忌々しくも相手に答えるのは、果たして英断か、それとも無知ゆえか。 さらにどこか子供のようにふてくされた彼を見て、麦野は言葉を続ける。 「強者の義務は、あなたにも適用されるのよ?」 「・・・」 答えは無言。 しかしそれは無視ではなく、無視できぬがゆえの返答であることを彼女は理解していた。 再びスプーンを舐める。 『この人(ご主人様)』の唾液のついたスプーンを。 「強者の義務。上に立つべきものの資質。上に立つものは模範でなくては成らない。そして、この学園では模範とは暴君」 その言葉に、彼女が思い浮かべたのは三人。 一人は学園都市が誇る唯一無二の第一位。 全てのベクトルを操る傍若無人。 暴君の具現とはあれのことを言うのに相違ない。 「だから、善政であれ、悪政であれ、なんにしてもあんたには義務があるんだよ。中庸なんて甘えた中途半端なんざゆるさねぇ」 二人目も、同様に彼女を超える学園都市の第二位。 ありとあらゆる物質を作り出せる反則。 それで居て徒党を組む彼は、誰よりも君主にふさわしいかもしれない。 「そうだろう?学園都市が誇る超能力者(レベル5)」 最後に、一人。 最も彼女が恐れ敬い蔑み憧れる暴君(存在)。 上記の二人など目ではない。 精神も、心情もあまりにも普通。 それで居ながら、自分を傷つけることなく、己を許すことなく。 麦野を屈服/敗北(納得)させた人。 彼女を壊し/殺し(犯し)た存在を。 目の前に居る、暴君などなぎ払う大嵐を。 「言うな」 響く言葉は拒絶のそれ。 赤い瞳に宿るのは怒り以外の何者でもなく、揺るぐことなく彼女をにらみつける。 それで、軽くいきそうになる。 先ほど、舌を犯されたときよりも。 シンの舌を犯したときよりも。 この人のスプーンを舐めたときよりも。 故に、彼女は止まらない。 彼の唯一無二だけを目指す彼女には、止める事などできようはずも無い。 「全ての因果を逆転させて、己の願いをかなえる人」 「だから!!」 机が強く叩かれる。 殺気さえもにじみ出るそれに、彼女の異常は歓喜と悦楽を味わう。 「ねぇ、学園都市超能力者(レベル5)第八位、『因果逆転(ラッキー・スケベ)』、シン・アスカ」 「だから」 そのあまりにもシリアスな雰囲気をぶち壊すその名称を。 「その名前を呼ぶのをやめろっていってるんだろうがーーーー!!!」 それを耳にしたシンがついに叫びを上げる。 つい10分前まで平和を享受していた姿はそこには無く、 まるで認めたくない現実を突きつけられた愚者のように頭を抱えて座り込む。 その姿が可愛くて、彼女は再び自分でパフェを口に運ぶ。 「いいじゃない。そのおかげで生活には困らないんだし。つーか、今更あんた切り離されたらホームレスよ?そのままどっかの怪しいおばさんに身包みはがされてきっとペットにされるわよ?」 そんなことをさせるつもりは毛頭無いことを口にする。 そう、この人には自分を飼ってもらう義務があるのだから。 「あぁ・・・畜生・・・この世には神も仏も居ないのか・・・」 もはや涙を滂沱のごとくに流し続けるそれはまるでおびえる子ウサギのようで可愛らしい。 「あら、良いじゃない。いきなり現れて超能力者(レベル5)仕事もそれで養ってもらえる内にやって置けるし、なにより市民証明もあるんだから」 「・・・だからと言って、なんでお前みたいな悪人とつるまなきゃならないんだよ!!?」 「それはまぁ、あきらめてもらうしかないわね。それに、あなたどちらかといえば悪人よ?守るために殺し続けるなんて、正義の味方のすることじゃないっつーの」 「くそぉう・・・所詮この世は弱いものには厳しすぎるというのか・・・」 再び口にパフェを運ぶ。 イチゴの仄かな酸味と甘みが絶妙なハーモニーを生み出し、麦野は満面の笑みを、彼と出会うまで一度も浮かべたことが無いほどの輝くような笑みを浮かべて、彼に今の実情を突きつけた。 「だからまぁ、お仕事がんばるわよ。ね?『新・アイテム』リーダー」 あまりにも厳しいその言葉に 「あんたは一体なんなんだーーーー!?」 シンは、学園都市によって認定された新たな超能力者はいつも通りの言葉を叫んだ。 おまけ・1 麦野「あ、でも神も仏も居ないけど、可愛い女の子なら居るよ?」 シン「・・・ちなみに聞くが、それは勿論笑いながら人を殺したり、口から下ネタばりの言葉を口にする女の子じゃないだろうな?」 麦野「当たり前でしょ?てか、私だし」 シン「おまわりさーん!!ここに嘘つきがいるぞーーーー!!と言うか、何で今日に限ってこいつしか来ないんだよーーーー!?」 最愛「・・・ごふ・・・」 フレンダ「ま、まさか副リーダーがここまでするなんて・・・」 最愛「し、シンが・・・あの人の毒牙に・・・・」 フレンダ「さ、最愛!あまり動いては体に」 最愛「そうなったら・・・シンを寝取って私達は添い遂げる!!っごほっごは!!」 フレンダ「・・・あぁ、思ったよりも平気そうですわね」 滝壺「・・・浜面、今日はどうするの?」 浜面「まぁ、さっきの言葉のとおりにするしかないだろうなぁ・・・さもなけりゃ、俺達もあいつらの仲間入りだ」 滝壺「判った。じゃあ、今日は浜面と一緒に居る」 浜面「お、おう(・・・しかし、あいつと一緒に居たいからと言って他のやつらを半殺しにすることもないだろうに・・・女は怖いねぇ)」 おまけ・2 目録「とーま!とーま!!あの人たちなんかラブラブなんだよ!?」 不幸「・・・おい、インデックス。あまり刺激するなよな・・・」 目録「はい、とーま。あーん」 不幸「えーっと・・・何がしたいんですか?インデックスさん?」 目録「むー!あーんなんだよ!!私達も愛を確かめ合うの!!」 不幸「ははは、インデックスさん、それは幾らなんでも無理と言う・・・痛ってーーーー!!こ、こらかむなインデックス!!」 目録「女心がわからないとーまにお仕置きなんだよ!!」 不幸「だーーー!!不幸だーーー!!!」
https://w.atwiki.jp/99772200/pages/328.html
https://w.atwiki.jp/niconicokaraokedb/pages/1352.html
アニメ作品 アニメ曲一覧へ 作品一覧 藍より青し 青の祓魔師 いちばんうしろの大魔王 イナズマイレブン インフィニット・ストラトス H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND- えむえむっ! お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!! 俺たちに翼はない 俺の妹がこんなに可愛いわけがない 神のみぞ知るセカイ 空の境界 借りぐらしのアリエッティ 機動戦士ガンダム けいおん! けいおん!! GOSICK こはるびより これはゾンビですか? シティーハンター2 SHUFFLE! 侵略!イカ娘 STAR DRIVER 輝きのタクト セキレイ そらのおとしものf DiGiCharat デジモンテイマーズ 天空の城ラピュタ 天元突破グレンラガン とある魔術の禁書目録II ドラゴンクライシス! 日常 ニニンがシノブ伝 乃木坂春香の秘密 ぴゅあれっつぁ♪ ハートキャッチプリキュア! 化物語 花咲くいろは HUNTER×HUNTER ひだまりスケッチ×365 フラクタル ブラック★ロックシューター(アニメ) BLEACH 北斗の拳 ぽてまよ マクロスF 魔法少女まどか☆マギカ 魔方陣グルグル 魔法先生ネギま! ママは小学4年生 迷い猫オーバーラン! みつどもえ増量中! 名探偵ホームズ 円盤皇女ワるきゅーレ Rio RainbowGate! 輪廻のラグランジェ ルパン三世 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anime_wiki/pages/6656.html
■とある魔術の禁書目録Ⅱ オープニングアニメーション2(コンテ・演出) ■灼眼のシャナⅢ-FINAL- オープニングアニメーション1(コンテ・演出) ■ギルティクラウン 絵コンテ 8 ■関連タイトル とある魔術の禁書目録II Blu-ray BOX 初回限定生産
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1404.html
学園都市第九学区のある研究施設。 いつもなら必要最低限の灯りのみを残し学生もほぼ見あたらないような状態となる時間なのだが、今ここは燃え続ける一部の機材とそれを見に集まってきた野次馬で騒々しい状態だった。 正面では重装備の警備員が出入りし、その周辺は野次馬のそれ以上の侵入を許さないよう「KEEP OUT」と記されたテープで囲まれている。施設の各地ではいくらか消火されたものの、いまだに燃え続ける研究機材などがもうもうと煙を上げていた。 警備員の一人である黄泉川愛穂は施設に到着すると、近くで野次馬を抑えるのに狼狽していた鉄装綴里を捕まえて施設の中へと進んでいく。 「で、状況は」 「は、はいっ! えっとですね、負傷者は研究員七人、警備員十二人の計十九名でいずれも軽傷です。それで情報をまとめると、何者かによる爆破事件ってことになってるみたいです」 鉄装は重装備の警備員のジャケットから小型のデバイスを取り出しボタンをピコピコ押しながらデータを読み上げていく。 「何者か? テロリストってことじゃん?」 「いいえ、侵入者は爆破を起こしてすぐに現場から立ち去ってます」 「そうか、その侵入者ってのは?」 「人数は四,五人。その全員が黒いスーツ姿で発火、発電能力者、それを当時施設で巡回していた警備員の一人がその姿を目撃しています。爆破もおそらく能力によるものだそうです」 「ふーん、じゃあやっぱり『新素材』目的の強盗ってとこじゃん?」 この研究施設では最近開発された素材が話題になっていた。 CHB(硬度と柔軟性の両立)と呼ばれるこの素材は、柔軟性と硬度の従来の数値を大きく更新しさまざまな研究への応用を期待されている。もともと工芸品を作るうえで偶然発見されたものなのだが、その実用性からひとつの研究施設が専用に改築されるほどだ。 「はい、実際に研究室からCHBが数kgなくなっているようです。それと・・・」 「?」 不意に言葉を止めた眼鏡をかけた警備員に黄泉川は立ち止まって振り返る。 「実験用耐衝人形も数体、現場から消えています」 「デコイ?」 (んなもん何のために・・・? 大体、CHBの製法は近々特許をとって大々的に発表されるはずじゃん。それをわざわざこの時期に強盗までして手に入れる? まさかデコイが目当てってわけでもないだろうし。) あーもうワケわからんじゃんと考えに行き詰った頭をに手をやっていると、あれあれっと言う声が横から聞こえてくる。見ると、焦った様子の鉄装の手元のデバイスからビービーと警告音が鳴っている。どうやら使い慣れないデバイスが何らかのエラーを出たらしい。はぁ、と自分でもよくわからないため息をついた後、身体をさっきまで進んでいた方向へ向けなおす。 犯人の目的がどうにも見えないがここで考えても仕方ない。まず今は自分達にできることをするしかないのだから。 朝日が昇り、部活の朝練などで朝が早い学生や教員達はもう動き始めている時間。 ホテルの部屋の前の廊下にはすでに学生服へ着替えた篠原が立っていた。 そこに角からゆらっとひとつの影が現れる。 「遅かったな、サイモン」 現れた影に向かって篠原は視線を向けないまま話しかける。 「ええ、昨夜は仕事がありました故」 「仕事ねぇ・・・」 サイモンは大き目のトランクケースを引きずりながら学生服の少年の前を通り過ぎ、彼の立っている前の対面の部屋のドアに手をかける。 「これから作業に入ります。しばらく時間がかかります故、この部屋への出入りはご遠慮願います」 「なら先に言っとく。禁書目録と接触した」 「!!」 眼鏡の黒スーツが今まで崩さなかった表情を明らかな驚愕に変えて振り返る。 「それだけじゃない。その管理人ともな」 「まさか幻想殺しとも接触を!?」 更にかけられた言葉に振り向いた勢いのままサイモンは篠原の両肩を思いきり掴みかかった。それを少年は迷惑そうに払いのける。 「ああ。安心しろ、別に触れたわけじゃない」 気の抜けた顔に変わったサイモンを見ながら篠原は廊下の奥のエレベーターに向かって歩き始めた。 「昨日のことだ。詳しく知りたいならリアに聞け」 朝メシはどっかで食う、と少年は手をひらひら振りながら後ろを見ずに角を曲がっていく。 それを呆然としばらく見送った後、サイモンは足早に早朝の廊下を歩き始めた。その方向には、未だぐっすりと眠り続けるリアのいる部屋がある。 まだ目の覚めきっていない学生もいるなか、一時間目を終えた上条当麻は廊下に出て大きく伸びをした。 昨日はいろいろとドタバタしたが、帰りに寄ったデパートで食料を調達したおかげで今日はしっかり朝ご飯を食べることができた。もちろんインデックスのご機嫌を損なうこともなく、おかげで朝から絶好調である。何気に幸せを感じている上条だがいうまでもなくその要因が普通なことのあたり、彼の日頃の不幸具合がよくわかる。 「よーう、上やん。昨日と違って機嫌いいみたいだにゃー」 昨日と、というよりいつもとまったく同じ感じで土御門は廊下の向こうから声をかけてきた。 「まーな、なんてったって今日は朝ご飯は抜かなかったからな」 堂々と言い放つ上条にさすがの土御門も少し気の毒な顔で生返事をする。 「てゆーかお前今来たのか?」 「ちょっと昨日寝たのが遅くてにゃー。さっき起きたばっかぜよ」 おいおいと上条は思うが昨日三時間目の最初にまでがっちり遅刻したヤツがとやかく言う権利はない。 と、土御門が歩いてきた方とは逆から人だかりが歩いてくる。その先頭は昨日転校してきたばかりの茶髪がかった少年だ。上条にとって、昨日自分が先に助けに入ったとはいえその後しっかり不良たちを打ちのめし、しかもインデックスの食事代を半分出してくれた(ここが重要)恩人でもある。 「おーす、しのは」 「ああ、おはよう上条君。昨日は助かったよ」 人の群れの中心に立つ篠原はものすごいさわやかな笑顔である。思ってもみなかった相手の反応に上条は思わずへっと声を出して少しフリーズした。 目の前で取り巻きたちに昨日どうしてたのなどと聞かれ笑顔で答えるこの少年は、昨日のファミレスではどちらかと言うと昨日のチンピラによく似た雰囲気で、言葉遣いも今使われたものとはかなり遠いところにあるモノだった気がする。 ようやくフリーズから抜け出し篠原に話しかけようとした時には篠原はこちらの近くにまで寄ってきた。 (よう、俺は学校ではとりあえずこのキャラで通してんだ。あんま余計なこと言うなよ) 上条にしか聞こえないくらいの小声で茶髪がかった少年は釘を刺してきた。 (キャラって・・・なんでそんなことしてんだ?) 反射的に上条も小声になる。外からみれば会話しているようには見えないが、見つめあっている形なので下手をすれば変な誤解の目で見られるかもしれない。 (別になんだっていいじゃねーか。昨日は出費少なくてよかっただろ?) うっ、とツンツン頭の少年が小声ではないうめき声をあげる。その正面では後ろからどうしたのというクラスメイトの問いかけにやはり笑顔で対応する茶髪がかった少年の姿があった。 じゃ、またねと爽やかな笑顔を貼り付けて篠原はその場を後にする。それについていく取り巻き達を見送りながら、上条はあいつ昨日実はここまで考えて俺に奢ったんじゃねーだろうなとさっきまで感じていた感謝の気持ちを半分ぐらいにしていた。 「上やん、もうあの転校生と仲良くなってたんだにゃー」 そこで、さっきから黙って廊下の外側に張り付いて腕を組んでいた土御門がようやく声を発した。その表情はサングラスで隠れてはいるが、何かを企んでいるようなそんな感じだ。 「ああ、昨日いろいろあってな」 先ほど釘を刺された手前あまり彼のことをいろいろ聞かれては墓穴を掘りそうだと考えていた上条だったが、こちらが話を適当に変えてしまおうとする前に横から思わぬ横槍が入る。 「いろいろってなんなんやー上やん? 昨日何しとったんやー?」 見ると、教室の横の窓から体を乗り出した青髪ピアスがいつもの調子で体をくねくねさせている。 昨日隣のクラスの前で危ないことを呟いていたこの男に話すことはなおさら気が引けたが、かといってだんまりを決め込むと余計に突っ込まれることは目に見えている。周りには隠しているが実は上条は夏以前の記憶が一切なくなっているため、このクラスメイト達とは一ヶ月ほどの付き合いではあるがそれでもこのくらいのことを察するくらいには彼らの性格を掴めてきているのだ。 当たり障りのない答えを考え、上条は結論を出す。 「たまたま会ってちょっと街案内して飯食っただけだ。インデックスとあっちの連れの女の子と一緒に」 ナニッと案の定喰いついてくる青髪ピアス。土御門は喰いつくまでとはいかないがもともと転校生自体にはそもそも興味はさほどないのか、青髪ピアスにのっかっている。 篠原には自分の性格をばらすなという風に言われているので、リアのことを話すのはさほど問題ではないだろうとやや強引に結論付ける。おかげで上条の目論見どおり話は上手く逸れてくれていた。 ここ一ヶ月でこいつらの性格は掴めてきているのだ。 時刻は正午を少し過ぎた辺り。 昼食をコンビニのおにぎりで軽く済ませたリアは、外に出たついでに周辺を軽く散歩していた。というより、もともと居心地の悪いホテルから抜け出してきたために時間を潰していたのだが。 彼女が半年ほど前から行動を共にしているのは再会した幼馴染と十一人の仕事仲間だが、正直仕事に関しては何をしているのかいまいち理解できていない。他の十一人は裏で何かしているようだがそれが自分に回ってくることはない、それでも強いて仕事と言うなら篠原の我がままに振り回されることだろうか。 ようするに、リアはこの組織内で孤立していたのだ。 「はぁ・・・」 思わずため息が漏れる。やめようかとも思ったが、収入に関して文句はないし別の職を探すのも時間がかかる。それになにより、あの幼馴染からは目を離してはいけない。 リアは孤児院の出身である。 幼い頃篠原と出会い、その母親は自分にとてもよくしてくれた。きれいなロングの茶髪が似合う笑顔の絶えない人。やんちゃだった篠原圭をよく叱っていたがそのあと必ず抱きしめていたのをよく覚えている。 そして自分の顔を見るたび言っていた「この子のコトよろしくね」という言葉。 軽い感じで言ったのかも知れないが、当時のリアにとってその言葉はとても大切な約束として今も忘れることはない。 そして十数年ぶりに再会した幼馴染は、両親から離れてよくわからない正体不明の黒スーツの集団と何かこそこそやっているのだ。彼の両親が今どうしているかと聞いても篠原は答えようとはしない、というより連絡を取り合っているとも思えない。そんな状態だからこそ、今の彼から離れることは約束を破ることになる。リアはそれだけはどうしても避けたかった。 「リア?」 ふと自分の名前を呼ばれてそこで初めて少女は俯いていた顔を上げた。周りの景色はホテル周辺のそれではなく昨日通った学校までの道の途中のようで、どうやら気付かないうちに遠くまで歩いてきていたらしい。 そして彼女の横では真っ白な修道服のシスターが猫を抱えてこちらを見ていた。 「ふーん、よくわからないけど大変なんだね」 通学路近くの公園に場所を移し、二人の少女はゆったりとしたベンチに腰掛けていた。手には近くで買ったたこ焼きの箱を持っている。 リアはいつの間にか、会話の途中でこの銀髪シスターに懺悔ではなく愚痴を聞いてもらっていた。話しながら、昨日出会ったばかりのこの少女に何をいってるんだろうと自分でも内心呆れてはいたものの、それでも誰かに聞いてもらうことによってホテルを出てきたときよりは幾分落ち着いた気がする。 「でもリアがその人を心配してるってことはわかったかも」 その言葉にリアは思わずゴホゴホッと咳き込んだ。 「な、なんで私があいつのコトなんか!仕事をやめないのはあいつの母親と約束してるから仕方なく・・・」 そこまで言って、リアは言葉を止めた。 本当にそれだけなのだろうか、と自問自答する。彼女との約束がなければ自分はここにいなかったのだろうか。 横ではシスターはじっとこちらを見ていた。 「・・・ううん、やっぱり心配なのかも。なんだかんだ言ってもあいつとは古い仲だしね。」 別にこれがあいつのことを異性として好きだとかそういう感情などとは思わないが、それでも無関心になることなど出来ない。もし自分に手のかかる弟でも居たのなら同じような気持ちになったのだろうか。 シスターは特に何も言わずに待つ。それに苦笑いしながら 「せめて裏でコソコソせずに何してんのかくらい聞かせてくれれればいいんだけどね」 「そう! そーなんだよ!」 突然会話に食いついてきたシスターに驚いたリアは思わず手の中のたこ焼きを落としそうになる。当のシスターはといえば、会話に熱くなった様子でありながらもたこ焼きを食べることはしっかり忘れない。 「とうまもさ、わたしの知らないところでいっつもいっつもいーーーっつも何かしてるんだよ。しかも帰ってきたときには大体怪我してて会うのは病院だし。もうちょっととうまには落ち着いてもらわないと困るかもぐもぐ」 ヒートアップしつつも、インデックスは文句を全て言い終わる前に手に取ったたこ焼きを口に放り込み最後らへんはもごもごと喋っている。 昨日から見てて尽きる気がまるでしないこのシスターの食欲に圧倒され、思わずリアは自分の手元のたこ焼きを食べる?と差し出しした。 いいの? と一応言いながらも一切の躊躇なくそれを受け取り満足そうにシスターは食べ始める。それを見ながらリアはサイモンの言ったことを思い出した。 (禁書目録と幻想殺し・・・か) 今朝、サイモンにたたき起こされ昨日のことを根掘り葉掘り聞き出されたときに出てきたキーワード。 『禁書目録と幻想殺しは危険だ、儀式を破壊される恐れがある』 多分禁書目録というのはこのインデックスという少女のことだ。ということは、その管理者である幻想殺しというのはあの上条当麻という少年か、あるいはほかの誰かか。 なんにせよ、この腹ペコシスターさんがサイモンのいうような危険な存在に思えない。ならばインデックスの何らかの能力、あるいは所有物かなにかがあの黒スーツ達が裏で進めている儀式とやらの妨害になっているのだろう。 つまり、このシスターから上手く話を聞くことができれば何かわかることがあるかもしれない。 そこまで考えて、リアはそれをやめた。半端に知ったところでそれを生かせるかもわからないし彼らの仕事に関われるとも思えない。そもそも、一体どう聞けば自分の望む情報が目の前の少女から得られるかも分からないのだ。 ふと横を見ると、ベンチの右側のシスターが自分の手の中のものを全て食べてしまっていた。そしてその視線はリアの右手首のリングに注がれている。 「えっと・・・どうしたの?」 「それ、霊装だね」 霊装?とリアは聞きなれない言葉に思わずそれを反復する。 「まあ平たく言うと魔術的な効果をもつ道具のこと。・・・ルーンが刻んであるね、意味は創造。多分外側に光でルーンを浮かばせて、魔法陣をリングの中に作ってるんだと思う。ほかにも威力をあげるために武器って文字とあとⅩⅡってなんだろ・・・?」 「ちょっ、ちょっと待って?魔術?」 突然理解のできない言葉を並べだしたシスターについていけなくなったリアは思わずインデックスの話を遮る。 「そうだよ。魔術」 言葉としては聞いたことはある。たしか十字教の一部の人間が使えるという噂だがもちろん実際に見たわけでもなく、地元の夜中三時に出没するという時速二〇〇キロで走る老婆と同じぐらい信憑性は低い。 「魔術ってあのオカルトのよね?」 「たしかにオカルトだけど、実際に存在するし法則もある技術なんだよ」 このシスターが嘘をついているようには思えない。かといってその全てを信じきるにはリアのこれまでの世界は余りに平穏に満ちていた。 (霊能者とかと似たようなものかしら・・・?) テレビなどでたまに見る心霊番組の類を一切信用していないこの黒スーツの少女は、インデックスのことをそれに出てくる自称霊能力者みたいなものと思うことにした。信じることはできないが別にその人の世界を否定しようとも思わない。ならば話を受け流せばいい。 そこでリアはふと気付く。 「えっと・・・じゃあこのリングをくれた人も魔術と何か関係があるのかしら?他にもたくさん持っていたみたいだけど」 「ならその可能性は高いね。その人が作ったものかどこかから見つけてきたものかはわからないけど、このレベルの霊装が魔術師じゃない人にに複数渡るとは思えないかも」 リアは知らなかったみたいだけどと付け加えるシスターに苦笑いしながらリアは考える。 このリングはサイモンに、未だに何をしているのかわからないこの仕事に誘われたときスーツと一緒に渡されたもので他の皆も持っている。ということは彼はインデックスの言う魔術師なのだろう。 ならば『儀式』と『魔術』、この二つが無関係だとは思えない。 しかし、まさか裏でそんな得体の知れないことをやってきていたのかと思うとため息が出る。こんなことで時間をかけて振り回され、挙句国まで渡ってきたことが切なくなってきた。さすがにこれはサイモンか篠原に問いただしてやめさせるべきだろう。そんなオカルトに頼ったところで得られるものなどないのだから。 そしてリアはその場に立ち上がるとシスターの方を向く。 「さて、そろそろ私は帰るね。ちょっと用事思い出しちゃった」 軽く手を振ってもと来た道を歩いていく。 予想外にシスターの方から自分の欲しかった情報が与えられた。篠原とサイモンたちが裏でしていることがオカルトならば拍子抜けではあるが、それでも犯罪とかそんなことを考えていたリアにとってはほっとするところもある。 ホテルを出たときに比べて、少女の足取りは軽かった。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1438.html
学園都市第九学区のある研究施設。 いつもなら必要最低限の灯りのみを残し学生もほぼ見あたらないような状態となる時間なのだが、今ここは燃え続ける一部の機材とそれを見に集まってきた野次馬で騒々しい状態だった。 正面では重装備の警備員が出入りし、その周辺は野次馬のそれ以上の侵入を許さないよう「KEEP OUT」と記されたテープで囲まれている。施設の各地ではいくらか消火されたものの、いまだに燃え続ける研究機材などがもうもうと煙を上げていた。 警備員の一人である黄泉川愛穂は施設に到着すると、近くで野次馬を抑えるのに狼狽していた鉄装綴里を捕まえて施設の中へと進んでいく。 「で、状況は」 「は、はいっ! えっとですね、負傷者は研究員七人、警備員十二人の計十九名でいずれも軽傷です。それで情報をまとめると、何者かによる爆破事件ってことになってるみたいです」 鉄装は重装備の警備員のジャケットから小型のデバイスを取り出しボタンをピコピコ押しながらデータを読み上げていく。 「何者か? テロリストってことじゃん?」 「いいえ、侵入者は爆破を起こしてすぐに現場から立ち去ってます」 「そうか、その侵入者ってのは?」 「人数は四,五人。その全員が黒いスーツ姿で発火、発電能力者、それを当時施設で巡回していた警備員の一人がその姿を目撃しています。爆破もおそらく能力によるものだそうです」 「ふーん、じゃあやっぱり『新素材』目的の強盗ってとこじゃん?」 この研究施設では最近開発された素材が話題になっていた。 CHB(硬度と柔軟性の両立)と呼ばれるこの素材は、柔軟性と硬度の従来の数値を大きく更新しさまざまな研究への応用を期待されている。もともと工芸品を作るうえで偶然発見されたものなのだが、その実用性からひとつの研究施設が専用に改築されるほどだ。 「はい、実際に研究室からCHBが数kgなくなっているようです。それと・・・」 「?」 不意に言葉を止めた眼鏡をかけた警備員に黄泉川は立ち止まって振り返る。 「実験用耐衝人形も数体、現場から消えています」 「デコイ?」 (んなもん何のために・・・? 大体、CHBの製法は近々特許をとって大々的に発表されるはずじゃん。それをわざわざこの時期に強盗までして手に入れる? まさかデコイが目当てってわけでもないだろうし。) あーもうワケわからんじゃんと考えに行き詰った頭をに手をやっていると、あれあれっと言う声が横から聞こえてくる。見ると、焦った様子の鉄装の手元のデバイスからビービーと警告音が鳴っている。どうやら使い慣れないデバイスが何らかのエラーを出たらしい。はぁ、と自分でもよくわからないため息をついた後、身体をさっきまで進んでいた方向へ向けなおす。 犯人の目的がどうにも見えないがここで考えても仕方ない。まず今は自分達にできることをするしかないのだから。 朝日が昇り、部活の朝練などで朝が早い学生や教員達はもう動き始めている時間。 ホテルの部屋の前の廊下にはすでに学生服へ着替えた篠原が立っていた。 そこに角からゆらっとひとつの影が現れる。 「遅かったな、サイモン」 現れた影に向かって篠原は視線を向けないまま話しかける。 「ええ、昨夜は仕事がありました故」 「仕事ねぇ・・・」 サイモンは大き目のトランクケースを引きずりながら学生服の少年の前を通り過ぎ、彼の立っている前の対面の部屋のドアに手をかける。 「これから作業に入ります。しばらく時間がかかります故、この部屋への出入りはご遠慮願います」 「なら先に言っとく。禁書目録と接触した」 「!!」 眼鏡の黒スーツが今まで崩さなかった表情を明らかな驚愕に変えて振り返る。 「それだけじゃない。その管理人ともな」 「まさか幻想殺しとも接触を!?」 更にかけられた言葉に振り向いた勢いのままサイモンは篠原の両肩を思いきり掴みかかった。それを少年は迷惑そうに払いのける。 「ああ。安心しろ、別に触れたわけじゃない」 気の抜けた顔に変わったサイモンを見ながら篠原は廊下の奥のエレベーターに向かって歩き始めた。 「昨日のことだ。詳しく知りたいならリアに聞け」 朝メシはどっかで食う、と少年は手をひらひら振りながら後ろを見ずに角を曲がっていく。 それを呆然としばらく見送った後、サイモンは足早に早朝の廊下を歩き始めた。その方向には、未だぐっすりと眠り続けるリアのいる部屋がある。 まだ目の覚めきっていない学生もいるなか、一時間目を終えた上条当麻は廊下に出て大きく伸びをした。 昨日はいろいろとドタバタしたが、帰りに寄ったデパートで食料を調達したおかげで今日はしっかり朝ご飯を食べることができた。もちろんインデックスのご機嫌を損なうこともなく、おかげで朝から絶好調である。何気に幸せを感じている上条だがいうまでもなくその要因が普通なことのあたり、彼の日頃の不幸具合がよくわかる。 「よーう、上やん。昨日と違って機嫌いいみたいだにゃー」 昨日と、というよりいつもとまったく同じ感じで土御門は廊下の向こうから声をかけてきた。 「まーな、なんてったって今日は朝ご飯は抜かなかったからな」 堂々と言い放つ上条にさすがの土御門も少し気の毒な顔で生返事をする。 「てゆーかお前今来たのか?」 「ちょっと昨日寝たのが遅くてにゃー。さっき起きたばっかぜよ」 おいおいと上条は思うが昨日三時間目の最初にまでがっちり遅刻したヤツがとやかく言う権利はない。 と、土御門が歩いてきた方とは逆から人だかりが歩いてくる。その先頭は昨日転校してきたばかりの茶髪がかった少年だ。上条にとって、昨日自分が先に助けに入ったとはいえその後しっかり不良たちを打ちのめし、しかもインデックスの食事代を半分出してくれた(ここが重要)恩人でもある。 「おーす、しのは」 「ああ、おはよう上条君。昨日は助かったよ」 人の群れの中心に立つ篠原はものすごいさわやかな笑顔である。思ってもみなかった相手の反応に上条は思わずへっと声を出して少しフリーズした。 目の前で取り巻きたちに昨日どうしてたのなどと聞かれ笑顔で答えるこの少年は、昨日のファミレスではどちらかと言うと昨日のチンピラによく似た雰囲気で、言葉遣いも今使われたものとはかなり遠いところにあるモノだった気がする。 ようやくフリーズから抜け出し篠原に話しかけようとした時には篠原はこちらの近くにまで寄ってきた。 (よう、俺は学校ではとりあえずこのキャラで通してんだ。あんま余計なこと言うなよ) 上条にしか聞こえないくらいの小声で茶髪がかった少年は釘を刺してきた。 (キャラって・・・なんでそんなことしてんだ?) 反射的に上条も小声になる。外からみれば会話しているようには見えないが、見つめあっている形なので下手をすれば変な誤解の目で見られるかもしれない。 (別になんだっていいじゃねーか。昨日は出費少なくてよかっただろ?) うっ、とツンツン頭の少年が小声ではないうめき声をあげる。その正面では後ろからどうしたのというクラスメイトの問いかけにやはり笑顔で対応する茶髪がかった少年の姿があった。 じゃ、またねと爽やかな笑顔を貼り付けて篠原はその場を後にする。それについていく取り巻き達を見送りながら、上条はあいつ昨日実はここまで考えて俺に奢ったんじゃねーだろうなとさっきまで感じていた感謝の気持ちを半分ぐらいにしていた。 「上やん、もうあの転校生と仲良くなってたんだにゃー」 そこで、さっきから黙って廊下の外側に張り付いて腕を組んでいた土御門がようやく声を発した。その表情はサングラスで隠れてはいるが、何かを企んでいるようなそんな感じだ。 「ああ、昨日いろいろあってな」 先ほど釘を刺された手前あまり彼のことをいろいろ聞かれては墓穴を掘りそうだと考えていた上条だったが、こちらが話を適当に変えてしまおうとする前に横から思わぬ横槍が入る。 「いろいろってなんなんやー上やん? 昨日何しとったんやー?」 見ると、教室の横の窓から体を乗り出した青髪ピアスがいつもの調子で体をくねくねさせている。 昨日隣のクラスの前で危ないことを呟いていたこの男に話すことはなおさら気が引けたが、かといってだんまりを決め込むと余計に突っ込まれることは目に見えている。周りには隠しているが実は上条は夏以前の記憶が一切なくなっているため、このクラスメイト達とは一ヶ月ほどの付き合いではあるがそれでもこのくらいのことを察するくらいには彼らの性格を掴めてきているのだ。 当たり障りのない答えを考え、上条は結論を出す。 「たまたま会ってちょっと街案内して飯食っただけだ。インデックスとあっちの連れの女の子と一緒に」 ナニッと案の定喰いついてくる青髪ピアス。土御門は喰いつくまでとはいかないがもともと転校生自体にはそもそも興味はさほどないのか、青髪ピアスにのっかっている。 篠原には自分の性格をばらすなという風に言われているので、リアのことを話すのはさほど問題ではないだろうとやや強引に結論付ける。おかげで上条の目論見どおり話は上手く逸れてくれていた。 ここ一ヶ月でこいつらの性格は掴めてきているのだ。 時刻は正午を少し過ぎた辺り。 昼食をコンビニのおにぎりで軽く済ませたリアは、外に出たついでに周辺を軽く散歩していた。というより、もともと居心地の悪いホテルから抜け出してきたために時間を潰していたのだが。 彼女が半年ほど前から行動を共にしているのは再会した幼馴染と十一人の仕事仲間だが、正直仕事に関しては何をしているのかいまいち理解できていない。他の十一人は裏で何かしているようだがそれが自分に回ってくることはない、それでも強いて仕事と言うなら篠原の我がままに振り回されることだろうか。 ようするに、リアはこの組織内で孤立していたのだ。 「はぁ・・・」 思わずため息が漏れる。やめようかとも思ったが、収入に関して文句はないし別の職を探すのも時間がかかる。それになにより、あの幼馴染からは目を離してはいけない。 リアは孤児院の出身である。 幼い頃篠原と出会い、その母親は自分にとてもよくしてくれた。きれいなロングの茶髪が似合う笑顔の絶えない人。やんちゃだった篠原圭をよく叱っていたがそのあと必ず抱きしめていたのをよく覚えている。 そして自分の顔を見るたび言っていた「この子のコトよろしくね」という言葉。 軽い感じで言ったのかも知れないが、当時のリアにとってその言葉はとても大切な約束として今も忘れることはない。 そして十数年ぶりに再会した幼馴染は、両親から離れてよくわからない正体不明の黒スーツの集団と何かこそこそやっているのだ。彼の両親が今どうしているかと聞いても篠原は答えようとはしない、というより連絡を取り合っているとも思えない。そんな状態だからこそ、今の彼から離れることは約束を破ることになる。リアはそれだけはどうしても避けたかった。 「リア?」 ふと自分の名前を呼ばれてそこで初めて少女は俯いていた顔を上げた。周りの景色はホテル周辺のそれではなく昨日通った学校までの道の途中のようで、どうやら気付かないうちに遠くまで歩いてきていたらしい。 そして彼女の横では真っ白な修道服のシスターが猫を抱えてこちらを見ていた。 「ふーん、よくわからないけど大変なんだね」 通学路近くの公園に場所を移し、二人の少女はゆったりとしたベンチに腰掛けていた。手には近くで買ったたこ焼きの箱を持っている。 リアはいつの間にか、会話の途中でこの銀髪シスターに懺悔ではなく愚痴を聞いてもらっていた。話しながら、昨日出会ったばかりのこの少女に何をいってるんだろうと自分でも内心呆れてはいたものの、それでも誰かに聞いてもらうことによってホテルを出てきたときよりは幾分落ち着いた気がする。 「でもリアがその人を心配してるってことはわかったかも」 その言葉にリアは思わずゴホゴホッと咳き込んだ。 「な、なんで私があいつのコトなんか!仕事をやめないのはあいつの母親と約束してるから仕方なく・・・」 そこまで言って、リアは言葉を止めた。 本当にそれだけなのだろうか、と自問自答する。彼女との約束がなければ自分はここにいなかったのだろうか。 横ではシスターはじっとこちらを見ていた。 「・・・ううん、やっぱり心配なのかも。なんだかんだ言ってもあいつとは古い仲だしね。」 別にこれがあいつのことを異性として好きだとかそういう感情などとは思わないが、それでも無関心になることなど出来ない。もし自分に手のかかる弟でも居たのなら同じような気持ちになったのだろうか。 シスターは特に何も言わずに待つ。それに苦笑いしながら 「せめて裏でコソコソせずに何してんのかくらい聞かせてくれれればいいんだけどね」 「そう! そーなんだよ!」 突然会話に食いついてきたシスターに驚いたリアは思わず手の中のたこ焼きを落としそうになる。当のシスターはといえば、会話に熱くなった様子でありながらもたこ焼きを食べることはしっかり忘れない。 「とうまもさ、わたしの知らないところでいっつもいっつもいーーーっつも何かしてるんだよ。しかも帰ってきたときには大体怪我してて会うのは病院だし。もうちょっととうまには落ち着いてもらわないと困るかもぐもぐ」 ヒートアップしつつも、インデックスは文句を全て言い終わる前に手に取ったたこ焼きを口に放り込み最後らへんはもごもごと喋っている。 昨日から見てて尽きる気がまるでしないこのシスターの食欲に圧倒され、思わずリアは自分の手元のたこ焼きを食べる?と差し出しした。 いいの? と一応言いながらも一切の躊躇なくそれを受け取り満足そうにシスターは食べ始める。それを見ながらリアはサイモンの言ったことを思い出した。 (禁書目録と幻想殺し・・・か) 今朝、サイモンにたたき起こされ昨日のことを根掘り葉掘り聞き出されたときに出てきたキーワード。 『禁書目録と幻想殺しは危険だ、儀式を破壊される恐れがある』 多分禁書目録というのはこのインデックスという少女のことだ。ということは、その管理者である幻想殺しというのはあの上条当麻という少年か、あるいはほかの誰かか。 なんにせよ、この腹ペコシスターさんがサイモンのいうような危険な存在に思えない。ならばインデックスの何らかの能力、あるいは所有物かなにかがあの黒スーツ達が裏で進めている儀式とやらの妨害になっているのだろう。 つまり、このシスターから上手く話を聞くことができれば何かわかることがあるかもしれない。 そこまで考えて、リアはそれをやめた。半端に知ったところでそれを生かせるかもわからないし彼らの仕事に関われるとも思えない。そもそも、一体どう聞けば自分の望む情報が目の前の少女から得られるかも分からないのだ。 ふと横を見ると、ベンチの右側のシスターが自分の手の中のものを全て食べてしまっていた。そしてその視線はリアの右手首のリングに注がれている。 「えっと・・・どうしたの?」 「それ、霊装だね」 霊装?とリアは聞きなれない言葉に思わずそれを反復する。 「まあ平たく言うと魔術的な効果をもつ道具のこと。・・・ルーンが刻んであるね、意味は創造。多分外側に光でルーンを浮かばせて、魔法陣をリングの中に作ってるんだと思う。ほかにも威力をあげるために武器って文字とあとⅩⅡってなんだろ・・・?」 「ちょっ、ちょっと待って?魔術?」 突然理解のできない言葉を並べだしたシスターについていけなくなったリアは思わずインデックスの話を遮る。 「そうだよ。魔術」 言葉としては聞いたことはある。たしか十字教の一部の人間が使えるという噂だがもちろん実際に見たわけでもなく、地元の夜中三時に出没するという時速二〇〇キロで走る老婆と同じぐらい信憑性は低い。 「魔術ってあのオカルトのよね?」 「たしかにオカルトだけど、実際に存在するし法則もある技術なんだよ」 このシスターが嘘をついているようには思えない。かといってその全てを信じきるにはリアのこれまでの世界は余りに平穏に満ちていた。 (霊能者とかと似たようなものかしら・・・?) テレビなどでたまに見る心霊番組の類を一切信用していないこの黒スーツの少女は、インデックスのことをそれに出てくる自称霊能力者みたいなものと思うことにした。信じることはできないが別にその人の世界を否定しようとも思わない。ならば話を受け流せばいい。 そこでリアはふと気付く。 「えっと・・・じゃあこのリングをくれた人も魔術と何か関係があるのかしら?他にもたくさん持っていたみたいだけど」 「ならその可能性は高いね。その人が作ったものかどこかから見つけてきたものかはわからないけど、このレベルの霊装が魔術師じゃない人にに複数渡るとは思えないかも」 リアは知らなかったみたいだけどと付け加えるシスターに苦笑いしながらリアは考える。 このリングはサイモンに、未だに何をしているのかわからないこの仕事に誘われたときスーツと一緒に渡されたもので他の皆も持っている。ということは彼はインデックスの言う魔術師なのだろう。 ならば『儀式』と『魔術』、この二つが無関係だとは思えない。 しかし、まさか裏でそんな得体の知れないことをやってきていたのかと思うとため息が出る。こんなことで時間をかけて振り回され、挙句国まで渡ってきたことが切なくなってきた。さすがにこれはサイモンか篠原に問いただしてやめさせるべきだろう。そんなオカルトに頼ったところで得られるものなどないのだから。 そしてリアはその場に立ち上がるとシスターの方を向く。 「さて、そろそろ私は帰るね。ちょっと用事思い出しちゃった」 軽く手を振ってもと来た道を歩いていく。 予想外にシスターの方から自分の欲しかった情報が与えられた。篠原とサイモンたちが裏でしていることがオカルトならば拍子抜けではあるが、それでも犯罪とかそんなことを考えていたリアにとってはほっとするところもある。 ホテルを出たときに比べて、少女の足取りは軽かった。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1077.html
技術が更なる発展を遂げ、その粋を集めた高層ビルや風力発電用風車が、緻密に計算された都市構造の下、いくつも折り重なるように立ち並ぶ風景。 それでいて環境への配慮も施され、いたるところに自然が溢れてる、まるで近未来を彷彿とさせる風景。 そんな街『学園都市』のとある路地にて、黒い蝶ネクタイに赤いスーツという奇怪な服装に身を包んだ男が、人だかりの中心で喝采を浴びていた。 「わぁー!スゲー!」 「なんでー!」 赤いスーツの男はその歓声に答えるように手を振った。 男「ありがとう!ありがとう!」 そこに帰宅途中なのか、教科書が入るぐらいの黒い鞄をひっさげて通りすがる一人の男子高校生が。 上条「不幸だ・・・・・・ん?」 ちょうどその人だかりを見たとき、彼の目に飛び込んできたのは、黒に金縁の大きな箱の中から頭と足が出ている人を、今まさにノコギリで真っ二つにしようとする瞬間だった。 そしてそのまわりには興奮で沸き立った人々。 異様な光景だった。 上条当麻は思う、このままではあの人が変な服の男に切り刻まれてしまう、と。 急いで彼は人だかりの中心へと飛び込んでいった。 男「それではお見せいたしましょう!究極の奇術を!」 輪の中心に来た当麻は、人体を切断しようとしている赤いスーツの男に向かって若干喧嘩腰に話しかけた。 上条「おい、待てよ。どういうことだ。また魔術師が騒ぎを起こすつもりか。そうはさせねぇ!」 すると赤いスーツの男はノコギリを置いて睨みつけてきた。 当麻も睨み返す。 そして、ハッと何かに気がついたかのように話し始めた。 男「キミが噂の幻想殺しか。師匠から聞いてるよ」 意外な人物から幻想殺しの言葉を聞いて、当麻は耳を疑った。 上条当麻が持つ特別な力『幻想殺し』は外部の人間はもちろん、学園都市内でも知る者は一握りしかいないはずである。 上条「何!なんで俺の能力を知ってる!?」 赤いスーツの男はニヤニヤしながら、余裕綽々とでも言いたげに当麻を挑発する。 男「それは教えられないね~。でもキミは僕には勝てない。なぜなら僕の術はキミの幻想殺しでは打ち消せないからだ」 上条「なんだと!」 赤いスーツの男は何もかも知っていた。 これまでに上条当麻が魔術師と数々の激戦を繰り広げ、その右手に宿る『幻想殺し』によって勝利を勝ち取ってきたことを。 男「奇術は魔術や科学と違ってタネがある。全て現実なんだよ。だからキミには打ち消せない。僕はこの学園都市に『奇術』のすごさを見せつけるためにやってきたのだよ」 当麻は何も知らなかった。 今対峙している相手が自分にとって天敵にも等しい存在であるということを。 上条「奇術だか魔術だか知らねぇが俺はお前を倒す!!」 上条当麻が知ることになるもの。 それは科学でも魔術でもない第三の勢力『奇術』。 男「よく聞こえなかったなぁ?耳が・・・・・・でっかくなっちゃった!」 科学によって生み出された超能力から、魔術の頂点と呼ばれる神の力までをも打ち消す『幻想殺し』ですら敵わないという未知の技。 上条「な、何なんだよ!ふざけやがって!」 その奇怪な服に身を包み、人を切り刻もうとする謎の男は、まだ奇術界からの刺客にすぎなかった。 男「さあ、マギー審司の楽しいショーの始まりだ!!」 これは『とある魔術の禁書目録』のストーリーの裏で起こっていながら、本編に全く登場しなかった第三勢力との激闘の物語である。
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/384.html
『とある奇術の超絶技巧(トリックマスター)』序章 技術が更なる発展を遂げ、その粋を集めた高層ビルや風力発電用風車が、緻密に計算された都市構造の下、いくつも折り重なるように立ち並ぶ風景。 それでいて環境への配慮も施され、いたるところに自然が溢れてる、まるで近未来を彷彿とさせる風景。 そんな街『学園都市』のとある路地にて、黒い蝶ネクタイに赤いスーツという奇怪な服装に身を包んだ男が、人だかりの中心で喝采を浴びていた。 「わぁー!スゲー!」 「なんでー!」 赤いスーツの男はその歓声に答えるように手を振った。 男「ありがとう!ありがとう!」 そこに帰宅途中なのか、教科書が入るぐらいの黒い鞄をひっさげて通りすがる一人の男子高校生が。 上条「不幸だ・・・・・・ん?」 ちょうどその人だかりを見たとき、彼の目に飛び込んできたのは、黒に金縁の大きな箱の中から頭と足が出ている人を、今まさにノコギリで真っ二つにしようとする瞬間だった。 そしてそのまわりには興奮で沸き立った人々。 異様な光景だった。 上条当麻は思う、このままではあの人が変な服の男に切り刻まれてしまう、と。 急いで彼は人だかりの中心へと飛び込んでいった。 男「それではお見せいたしましょう!究極の奇術を!」 輪の中心に来た当麻は、人体を切断しようとしている赤いスーツの男に向かって若干喧嘩腰に話しかけた。 上条「おい、待てよ。どういうことだ。また魔術師が騒ぎを起こすつもりか。そうはさせねぇ!」 すると赤いスーツの男はノコギリを置いて睨みつけてきた。 当麻も睨み返す。 そして、ハッと何かに気がついたかのように話し始めた。 男「キミが噂の幻想殺しか。師匠から聞いてるよ」 意外な人物から幻想殺しの言葉を聞いて、当麻は耳を疑った。 上条当麻が持つ特別な力『幻想殺し』は外部の人間はもちろん、学園都市内でも知る者は一握りしかいないはずである。 上条「何!なんで俺の能力を知ってる!?」 赤いスーツの男はニヤニヤしながら、余裕綽々とでも言いたげに当麻を挑発する。 男「それは教えられないね~。でもキミは僕には勝てない。なぜなら僕の術はキミの幻想殺しでは打ち消せないからだ」 上条「なんだと!」 赤いスーツの男は何もかも知っていた。 これまでに上条当麻が魔術師と数々の激戦を繰り広げ、その右手に宿る『幻想殺し』によって勝利を勝ち取ってきたことを。 男「奇術は魔術や科学と違ってタネがある。全て現実なんだよ。だからキミには打ち消せない。僕はこの学園都市に『奇術』のすごさを見せつけるためにやってきたのだよ」 当麻は何も知らなかった。 今対峙している相手が自分にとって天敵にも等しい存在であるということを。 上条「奇術だか魔術だか知らねぇが俺はお前を倒す!!」 上条当麻が知ることになるもの。 それは科学でも魔術でもない第三の勢力『奇術』。 男「よく聞こえなかったなぁ?耳が・・・・・・でっかくなっちゃった!」 科学によって生み出された超能力から、魔術の頂点と呼ばれる神の力までをも打ち消す『幻想殺し』ですら敵わないという未知の技。 上条「な、何なんだよ!ふざけやがって!」 その奇怪な服に身を包み、人を切り刻もうとする謎の男は、まだ奇術界からの刺客にすぎなかった。 男「さあ、マギー審司の楽しいショーの始まりだ!!」 これは『とある魔術の禁書目録』のストーリーの裏で起こっていながら、本編に全く登場しなかった第三勢力との激闘の物語である。